障害と向き合う

「記憶に残る景色は、自分で動いた先にあった」

小さい頃から家族に連れられてキャンプや旅行に行くことがありました。

でも、手動車椅子に乗って押してもらっていただけの頃は、
その景色や場所の記憶はあまり残っていませんでした。

初めて電動車椅子に乗って、自分で操作して動いたとき、
初めて風の冷たさや斜面の感覚、花の色の鮮やかさに気づいたんです。

自分で動くからこそ、心に刻まれる景色がある。
今回は、そんな“初めての自由”についてお話しします。

目次

1. 誰かに押されていただけの景色

子どもの頃、家族と一緒にキャンプや旅行に行くことがよくありました。

川のせせらぎや緑豊かな森、広がる星空――
どれも素晴らしい景色だったはずなのに、正直その記憶はあまり残っていません。

なぜかというと、その頃の私は手動車椅子で、
誰かに押してもらって移動することがほとんどだったからです。

自分で動いているわけではなく、誰かに「連れていかれる」感覚。

それはまるで、風景が自分のものではなく、
ただ流れていく景色の一部でしかなかったような感覚でした。

もちろん、その場その場で楽しいこともあったし、
家族や友達と過ごす時間は大切な思い出です。

でも、その時の「記憶」として残っているのは、
風の冷たさや、道の起伏、花の香りといった
リアルな感覚よりも、ただ「どこかに連れていかれた」という
漠然とした印象ばかりでした。

2. 電動車椅子との出会い

そんな私が初めて「自分で動く」という感覚を得たのは、
中学部に上がったとき、電動車椅子に初めて乗ったときのことでした。

それまでは、自分の力で自由に動くという感覚自体がほとんどなかったので、
電動車椅子に乗った瞬間、まるで翼を手に入れたような感覚でした。

最初はその動きの速さや、ジョイスティックの感覚に戸惑いましたが、
徐々に自分の意志で前に進んだり、曲がったりできることの楽しさを感じるようになりました。

初めて斜面を下るときのスリル、風が頬をかすめる感覚、
タイヤが砂利道を走るときの小さな振動――
それらすべてが新鮮で、生きている実感に満ちていました。

それまでの私は、誰かに押してもらわなければ動けない存在だと思っていました。

でも、電動車椅子に乗ることで、「自分で動ける」ということが、
こんなにも自由で、心を解放してくれるものだと初めて気づいたんです。

3. 自分で動くということ

あるキャンプに行ったときのこと。

家族と一緒に訪れたその場所は、緑が生い茂る山間のキャンプ場でした。

それまでの私は、家族に手動車椅子で押されているだけの存在で、
自分からどこかに向かうという感覚はほとんどありませんでした。

でも、その日は違った。

電動車椅子に乗って、初めて自分で道を選び、
自分のペースで進むことができたんです。

斜面に差しかかったとき、タイヤが地面にしっかりと食いつく感覚、
少し傾いた体がバランスを取ろうとする感覚、
そして、その斜面を下りきったときに感じた達成感。

ふと足元を見ると、小さな花が咲いていました。

今までは誰かに押されて通り過ぎるだけだった道端の景色が、
初めて自分の目で、そして自分の意思で見る景色として刻まれた瞬間でした。

その時感じた風の冷たさや、空気の匂い、
土のざらつき――それらがすべて、記憶に強く残っています。

4. 最後に ― 記憶に残る風景

「自分で動く」ということは、ただ物理的に移動するだけではなく、
自分の意思で何かを選び、経験し、感じることだと気づきました。

誰かに押されるのではなく、自分の力で進むことで、
初めてその場所の空気や風景が「自分のもの」になる。

それはまさに、人生そのものと似ているかもしれません。

自分で選んだ道だからこそ、その先に見える景色は鮮やかで、
心に深く刻まれる。

これからも、そんな「自分で動く」経験を大切にしていきたいと思います。

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