障害と向き合う

“ふつう”ってなんだろう? ― 僕と兄が見てきた世界のちがい

こんにちは。この記事では、双子の兄との日々を通して考えた「“ふつう”ってなんだろう?」という問いについて書いています。
障がいのある僕と、健常の兄。
同じようで、少しずつ違っていった僕たちの関係と、その中で見えてきた“ふつう”の意味を、心のままに綴りました。

はじめに ― その言葉に、僕は立ち止まった

「お前、出てくんなよ。友達来るからさ。」

中学1年の春。兄の友達が遊びに来るという日のことだった。双子の兄にそう言われた僕は、静かにうなずいて、1階の自室へ引っ込んだ。

言葉がうまく返せなかった。ただ、「そっか…」とだけつぶやいて、ドアを閉めた。この日、僕たちの間に“境界線”ができた気がした。

幼いころの僕たち ― “ちがい”を知らなかった日々

僕と兄は双子で、外見もそっくりだった。ふたりとも野球が大好きで、最初に夢中になったのは実は僕の方だった。

幼い頃は、よくキャッチボールをした。僕は膝立ちの姿勢でボールを投げ、兄が受ける。フォームはぎこちなかったけど、兄は「ナイスボール!」と笑ってくれた。

小4になると、兄は少年野球チームに入り、僕は応援席から声を届けた。兄が打席に立つと胸が高鳴ったし、ヒットを打つと誇らしい気持ちになった。

特別支援学校と“ふつう”の境界線

小学校に上がると、僕は特別支援学校に通い始めた。兄は地域の小学校。

兄は徒歩で、僕は祖母とタクシーで登校していた。「なんで僕は普通の学校に行けないんだろう」と思いながらも、その疑問を兄に聞くことはなかった。

「特別な学校」という言葉に、少し距離を感じ始めていた。

思春期の衝突 ― 兄の“ふつう”と僕の“ちがい”

ある日、兄が友達にこう言っているのを聞いた。

「うちの弟、ちょっと障害あるから気にしないで。」

その言葉が、胸に突き刺さった。僕は“見せたくない存在”なのかもしれない。そんなふうに思ってしまった。

“ふつう”ってなんだろう。自分はその枠に入っていないんだ――そんな現実を突きつけられた。

変化 ― 兄との距離が、少しずつ変わっていった日々

高校時代、僕は兄の背番号を思い浮かべながら、野球の詩を書いた。自分が先に野球を好きになったのに、自分だけがプレーできない悔しさ。でも、今の自分にできることは「応援」だと信じた。

その詩には決意を込めた。“できないこと”より“できること”に目を向けようと。そしてその詩は、県のコンクールで表彰された。

高校卒業後、僕は福祉の道に進み、大学で学び、現場で働き始めた。社会人になって数年後、兄がふいにこう言った。

「お前って…すげぇな。俺だったら無理だと思う。人前で話したり、働いたり…尊敬してるよ。」

あの頃、欲しかったひとことが、ようやく届いた。

Lesson ― “ふつう”ってなんだろう?

僕はずっと、「ふつう」になりたかった。でも今、思う。

“ふつう”は、誰かが決めた基準なんかじゃない。僕の毎日の中にある、当たり前の積み重ねこそが、僕の“ふつう”だった。

兄と違う道を歩いたからこそ、僕たちはお互いを理解するきっかけを得た。“違い”は壁じゃない。つながりのはじまりだったのかもしれない。

あなたの“ふつう”は、誰かを縛っていませんか?

あなたにとっての“ふつう”は、誰かを安心させるものですか?それとも、誰かを苦しめているかもしれませんか?

無理に誰かと同じでなくていい。あなた自身の“ふつう”を、大切にしてほしい。

それが、僕が“違う”という立場から、ようやく見つけたひとつの答えです。

この物語が、誰かの心に、小さな光を届けることを願って。

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