共生・バリアフリー

「“なんで歩けないの?”と聞かれて ― 子どもの素直な疑問にどう向き合うか

なんで歩けないの?」と聞かれて ― 子どもの素直な疑問にどう向き合うか

リード文:
ある日、街中でふと出会った小さな子どものひと言――「なんで歩けないの?」。
その素直な疑問に、私は一瞬、言葉を失いました。
でも、その一言が私に「伝える」ということの意味を改めて問いかけてくれたのです。

目次

  1. ある日かけられた「なんで歩けないの?」
  2. 答えに詰まる自分 ― 傷ついたわけじゃないのに
  3. 素直な疑問は、差別でも悪気でもない
  4. 伝え方に正解はないけれど
  5. 子どもとの対話がもたらした“気づき”
  6. 誰かを変えるためではなく、自分を知ってもらうために
  7. 最後に ― 私が選んだ言葉とは

1. ある日かけられた「なんで歩けないの?」

それは本当に何気ない一瞬でした。
街を移動していたとき、すれ違った小さな子が、私の車椅子を見て「なんで歩けないの?」と尋ねてきたのです。
子どもにとっては、純粋な好奇心。そのまっすぐな目が、こちらをじっと見ていました。

2. 答えに詰まる自分 ― 傷ついたわけじゃないのに

正直、どう答えたらいいのか分かりませんでした。
傷ついたわけじゃない。でも「なんて返そう」と、瞬間的に頭が真っ白になってしまったのです。
それは、私がまだ「聞かれること」への準備ができていなかったからかもしれません。

3. 素直な疑問は、差別でも悪気でもない

子どもは悪気があって聞いたわけではありません。
ただ、目の前にいる“ちょっと違う存在”に、純粋な興味を持っただけ。
大人の私ですら戸惑うことを、言葉にしてくれた勇気ある行動だと思います。

4. 伝え方に正解はないけれど

「どう伝えるか」には正解はないと思っています。
「病気で生まれたときから歩けないんだよ」と話すときもあれば、「ちょっとだけ体の動かし方が違うんだよ」と言うときもあります。
相手や場面によって、伝え方は変わる。大切なのは、伝えようとする気持ちだと思います。

5. 子どもとの対話がもたらした“気づき”

私が伝えた一言に、子どもは「あっ、そうなんだ」とうなずき、すぐに次のことに興味を移していきました。
その姿に、「ああ、障害のある人と関わることが当たり前になっていけば、いちいち構える必要もなくなるんだ」と感じました。
そして、そんな日常を増やしていきたいと心から思いました。

これは、心理学でいう「単純接触効果(ザイアンス効果)」とも関係があると思います。
人は、繰り返し目にしたり関わったりするものに対して、自然と親しみやすさや安心感を持つようになります。
だからこそ、障害のある人と接する機会が多ければ多いほど、偏見や緊張感は少しずつやわらいでいくのです。

6. 誰かを変えるためではなく、自分を知ってもらうために

私は、誰かを“正そう”とは思っていません。
ただ、自分の存在や生き方を知ってもらえたら、それだけで十分だと思っています。
子どもとのやりとりは、まさにその第一歩だと思うのです。

7. 最後に ― 私が選んだ言葉とは

最近は、聞かれたらできるだけ笑顔で答えるようにしています。
「小さい頃から足が動かないんだ。でも車椅子があるから自由に動けるんだよ」と伝えると、子どもは「へぇー!」と驚きつつも嬉しそうに笑ってくれます。

実はこうした場面では、子どもよりもその親の対応が気になることがあります。
子どもが「なんで歩けないの?」と聞いてきたとき、親が慌てて「やめなさい!」とたしなめる姿をよく目にします。
その気持ちは分かります。でも今の私は、こう思っています。

――どうか、子どもの興味にふたをしないでほしい。

むしろ、話しかけてくれたことは貴重なチャンスです。
それをきっかけに障害について知ってもらうことができます。
そこで親が慌てて止めてしまうと、「障害って聞いちゃいけないもの」「関わっちゃいけないもの」になってしまう。
子どもたちの中に、無意識の壁を作ってしまうことにもなりかねません。

だから私は、どんどん話しかけてほしいと思っています。
関わる機会が増えれば、それがやがて“当たり前”になっていきます。
「障害のある人と出会うことが特別ではない社会」をつくっていくために、そんな対話の時間を、これからも大切にしていきたいです。

“支援する側”だけじゃない ― 当事者として、支援者として前のページ

“対等な関係”ってなんだろう? ― 支援・配慮・遠慮のあいだで次のページ

関連記事

  1. 障害と向き合う

    “察してほしくない”のに“わかってほしい” ― 伝え方に迷った日々

    「わかってほしい」と「察してほしくない」の間で「障害があることを理解…

  2. 共生・バリアフリー

    “居場所”を超えて ― 役割がつなぐ新たな挑戦

    これまで、居場所を探し続けてきた私。障害があっても、「ここなら大丈…

  3. 障害と向き合う

    “ありがとう”が重たかった日 ― 感謝と自己否定のあいだで

    「ありがとう」って言われるたびに、少し心が重くなることはありません…

  4. 生き方・自己理解

    “頼りすぎるかも”と不安なときに知っておきたいこと

    頼ることの大切さはわかっている。でも、何度も頼るうちに「申し訳ない」「…

  5. 障害と向き合う

    “挑戦し続ける”理由 ― あなたに伝えたいこと

    これまで、たくさんの挑戦をしてきました。障害を抱えた自分が、大学…

  6. 生き方・自己理解

    “助けて”がうまく言えないあなたへ――頼るための小さな練習

    「助けて」と言えずに、ひとりで抱え込んでしまうことはありませんか?頼る…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 障害と向き合う

    “役割”を超えて ― 自分の生き方を広げる挑戦
  2. 共生・バリアフリー

    なんで歩けないの?と聞かれて ― 子どもにどう伝えるか、悩んだあの日
  3. 自己紹介・このブログについて

    サイト名に込めた想い
  4. 障害と向き合う

    記憶に残る景色は、自分で動いた先にあった
  5. 障がい者との関わり方

    脳性まひってどんな障害?~当事者のリアルを通して知ってほしいこと~
PAGE TOP