“選ぶ”って、どういうこと? ― 自分の意思がわからなくなったあの日から
リード文:
「今日のごはん、どうする?」
その何気ない一言に、言葉が出なかった。
今まで誰かが決めてくれていた。洋服も、学校も、出かける場所も。
でも、大人になって初めて、自分で“選ばなきゃいけない”瞬間にぶつかったとき、私は“自分がどうしたいか”がわからなかった。
目次
- 1. 子どもの頃、すべてが「用意された世界」だった
- 2. 「自分で決めて」と言われて戸惑った日
- 3. 失敗する権利と、選ぶ力
- 4. 「自分の人生を生きる」ための練習
- 5. 支援者として思うこと ― エンパワメントと個別性
- 6. 最後に ― 小さな選択が未来をつくる
1. 子どもの頃、すべてが「用意された世界」だった
私の幼少期は、「用意された世界」の中で生きていました。
朝起きたら着る服が用意され、食べるものも決まっていて、行く場所も付き添いの大人に連れていってもらう。
それが“普通”だったから、疑問を持つこともありませんでした。
でもその代わりに、「自分で選ぶ」「自分で決める」経験がほとんどなかった。
気づかないうちに、“自分の意思”という感覚が育ちにくい環境だったのかもしれません。
2. 「自分で決めて」と言われて戸惑った日
大学進学とともに、私は一人暮らしを始めました。
「今日のご飯どうする?」「何時に寝る?」「どこに出かける?」
そんな日常の選択肢が、すべて自分に委ねられる生活。
でも私は戸惑いました。
決める力が、自分にはなかったんです。
それは、自分で考えて行動する練習をしてこなかったから。
私の“社会生活年齢”は、0歳からのスタートだったのです。
3. 失敗する権利と、選ぶ力
私たちは、選択と失敗を繰り返しながら学んでいきます。
でも、障害のある子どもたちは“失敗させないように”という善意の名のもとに、時にその経験を奪われてしまうことがあります。
発達障害や知的障害のある子どもたちは、失敗体験が怖いと感じやすい。
だからこそ、スモールステップで「できた!」を積み重ねていくことが大切です。
一方で、身体障害のある私自身は、「なんでもやってもらう」ことが当たり前になると、自分で考えることをやめてしまいそうになる怖さも感じてきました。
失敗する権利は、選ぶ力を育む第一歩です。
4. 「自分の人生を生きる」ための練習
自立とは、できることが増えることだけではありません。
「できないことを認める」「助けを求める」ことも、立派な自立です。
そして、自分で選ぶ練習を重ねていく中で、「自分の人生を生きている」と実感できる瞬間が増えていきます。
小さなことからでいい。
今日は何を食べたい?
どんな服を着たい?
その小さな選択こそが、自分の人生をつくる一歩になります。
5. 支援者として思うこと ― エンパワメントと個別性
私は現在、支援者としても働いています。
福祉の現場では、「手を差し伸べること」と「本人の力を信じて任せること」のバランスが大切です。
エンパワメントとは、相手の中にある力を引き出す支援の在り方。
そのためには、本人が“選び取る”機会を支える姿勢が必要です。
もちろん、障害特性によって支援の方法は異なります。
誰かを一方的に助けるのではなく、対等な関係で“ともに考える”支援が、本人の生きる力を引き出していくのだと感じています。
6. 最後に ― 小さな選択が未来をつくる
今、私は「選ぶこと」を楽しめるようになりました。
それは、失敗も含めて自分の人生を“自分で歩いてきた”と実感できるから。
支援が必要な人に対して、すべてを代わりに決めてしまうのではなく、
「選ぶ権利」「失敗する権利」を保障していくことが大切です。
一人ひとりが、自分の人生の主人公として生きられるように。
今日のあなたの“小さな選択”が、きっと未来を変えていきます。
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