比較しない生き方

“他人のペース”に置いていかれる気がするとき

私たちは日々、誰かと歩調を合わせながら生きています。学校でも職場でも、家庭や地域社会でも、「周りと同じようにできること」が評価されやすい仕組みの中に置かれています。そのため、自分のペースが周囲よりゆっくりだったり、やり方が違ったりすると、「置い私たちは日々、誰かと歩調を合わせながら生きています。学校でも職場でも、家庭や地域社会でも、「周りと同じようにできること」が評価されやすい仕組みの中に置かれています。そのため、自分のペースが周囲よりゆっくりだったり、やり方が違ったりすると、「置いていかれてしまうのではないか」という不安が生まれやすいのです。

私自身も、脳性麻痺による身体の動かしにくさがあることで、「人より時間がかかる」「段取りが遅れる」ことが多々あります。頭では「自分のペースでいい」と思っていても、周りの人がスムーズに進めている様子を見ると、どうしても焦りがこみ上げてきます。ときには「迷惑をかけていないだろうか」「自分の存在が足を引っ張っているのではないか」という恐れでいっぱいになるのです。


ペースは「能力」だけで決まらない

私たちは「早くできる=優れている」「遅い=劣っている」と思い込みがちです。ですが、実際にはペースを決める要因は能力だけではありません。環境の整え方、周りのサポートの有無、その日の体調や気分によっても大きく変わります。

たとえば、私の場合、事前にメモを準備したり音声入力を活用したりすると、格段に作業効率が上がります。逆に、急にやり方を変えられたり、予想外の状況に直面すると、一気にスピードが落ちてしまいます。つまり「できる・できない」だけではなく、「どういう状況なら力を発揮できるか」がとても重要なのです。


「置いていかれる不安」の背景にあるもの

心理学的に見ると、人が「他人のペース」と自分を比べて焦るとき、その裏には承認欲求や所属欲求が隠れていると言われます。
「みんなと一緒にいたい」「仲間外れになりたくない」という気持ちがあるからこそ、差を意識してしまうのです。
これは人間として自然な感情であり、弱さではありません。

しかし、その気持ちが強すぎると「常に周囲に合わせなければ」と自分を追い込み、結果的に疲弊してしまいます。大切なのは、「焦る気持ちは自然なもの」と受け止めながらも、「合わせることだけが価値ではない」と気づくことです。


自分のペースを守る工夫

では、どうすれば「置いていかれる不安」に押しつぶされずにいられるでしょうか。
私自身が心がけているのは次の3つです。

  1. 事前準備をする
     ペースを乱されやすい場面こそ、先に準備しておくことで安心感が生まれます。メモや音声入力の活用は、そのための大きな武器になっています。
  2. 小さな合図を出す
     「今少し時間がかかります」と一言伝えるだけで、周囲の理解は大きく変わります。言葉にすることで、自分の気持ちも少し落ち着くのです。
  3. 終わりを焦らず、過程を認める
     結果の速さよりも、「今日はここまで進められた」という過程に目を向けること。これは「比較しない生き方」を実践するうえで、とても大切な視点です。

「置いていかれる」ではなく「並んでいる」

誰かと比べて焦るとき、私たちは「同じゴールに同じ速さで進むべきだ」と思い込んでいます。けれど実際には、人生の道は一つではありません。早い人もいれば遅い人もいるし、寄り道を楽しむ人もいます。
それぞれのペースで歩むことができている時点で、私たちはすでに「並んでいる」と言えるのではないでしょうか。


私自身、今でも「他人のペース」に振り回されることがあります。それでも、「自分には自分のペースがある」と何度も言い聞かせながら、一歩ずつ歩んでいます。焦りや不安が完全になくなることはないかもしれません。けれど、その感情を抱えながらも、自分らしい歩み方を大切にしていけたら――それこそが「比較に振り回されない生き方」の実践なのだと思います。

“できて当たり前”と“できないよね”の間で揺れるとき前のページ

人からの評価ばかり気にしてしまうとき次のページ

関連記事

  1. 共生・バリアフリー

    “わがまま”じゃないんだ ― 自分のニーズを伝える勇気

    リード文:「わがままって思われるかな…」そんな不安が、いつもど…

  2. 障害と向き合う

    “挑戦し続ける”理由 ― あなたに伝えたいこと

    これまで、たくさんの挑戦をしてきました。障害を抱えた自分が、大学…

  3. 障害と向き合う

    “ふつう”ってなんだろう? ― 僕と兄が見てきた世界のちがい

    こんにちは。この記事では、双子の兄との日々を通して考えた「“ふつう”…

  4. 障害と向き合う

    「迷惑をかけたくない」が口ぐせに ― 障害当事者が語る支援を拒んだ理由とその先にある変化

    「大丈夫です」「自分でやります」気がつけば、いつもそう答えていました…

  5. 障がい者との関わり方

    “支援する側”だけじゃない ― 当事者として、支援者として

    “支援する側”だけじゃない ― 当事者として、支援者としてリード文:…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


  1. 働き方

    “自分らしく働く”ってどういうこと?
  2. 障がい者との関わり方

    障害者の沈黙と伝えたい気持ち
  3. 共生・バリアフリー

    障害者の伝え方と支援の受け止め方
  4. こころのケア

    “弱さを見せる”って、いけないこと?
  5. 障がい者との関わり方

    障害当事者が語る伝え方と頼り方の工夫
PAGE TOP