“働きがい”だけでは満たされないとき
私は日々、福祉の現場で子どもたちや保護者と向き合っています。
その中で「ありがとう」と言われたり、子どもの成長を一緒に喜べたりすると、大きなやりがいを感じます。
それは確かに“働きがい”です。
けれど、正直に言うと、それだけでは心が満たされないときもあります。
夜、ふと考えるのです。
「私は本当に、このために生きているのだろうか?」
心理学では「ワーク・エンゲージメント(仕事への活力)」と「ライフ・サティスファクション(人生の満足感)」は別物とされています。
仕事のやりがいが人生全体の満足につながることもありますが、必ずしもイコールではありません。
つまり、“働きがい”があっても、“生きがい”を感じられないことはあるのです。
“生きがい”と“働きがい”の定義の違い
ここで改めて、両者のちがいを整理してみます。
- 働きがい
仕事の中で得られる達成感ややりがい。
心理学的には「外発的動機づけ(報酬や評価)」と「内発的動機づけ(楽しさや意欲)」が関わっています。
例:成果を出す、役に立つ実感を得る、スキルが伸びる。 - 生きがい
人生全体における意味や充実感。
心理学者ヴィクトール・フランクルは著書『夜と霧』で「人間は意味を求める存在だ」と語っています。
また近年注目される「Ikigai concept」では、「好きなこと」「得意なこと」「社会が必要とすること」「報酬が得られること」の重なりに“生きがい”があるとされています。
つまり、働きがいは生きがいの一部になり得るけれど、それがすべてではありません。
人生の中で「家族との時間」「趣味」「人とのつながり」「自己表現」など、仕事以外の領域も含めて考えたときに初めて、“生きがい”は形になっていきます。
私自身の気づき
私は仕事上、日々多くの責任を背負っています。
そこにはやりがいも確かにありますが、「働きがい=生きがい」とは言い切れません。
仕事が忙しすぎて「働くために生きている」ように感じてしまうことも多くあります。
そのときは、やりがいはあるはずなのに、心は満たされず、「生きがいを見失っている」と気づきました。
一方で、休日に友人と過ごしたり、音楽活動やブログを通して表現したりするときに、「これも私にとっての生きがいだ」と実感できました。
働きがいはあくまで人生の一部。
生きがいはもっと広く、自分の存在そのものを支えるものだと、体験を通して学びました。
生きがいを探すための心理学的ヒント
では、どうすれば生きがいを見つけやすくなるのでしょうか。心理学の知見をヒントに考えてみます。
① 自分の価値観を言葉にする
「何を大切にしたいか」を言葉にすることで、生きがいの輪郭が見えてきます。
例:安心を届けたい、人をつなげたい、新しいものを生み出したい…。
価値観を明確にすることは、キャリアカウンセリングでも大切なプロセスです。
② PERMAモデルで自己チェックする
ポジティブ心理学者セリグマンが提唱した PERMAモデル では、
- P(Positive Emotion:ポジティブ感情)
- E(Engagement:没頭)
- R(Relationships:人間関係)
- M(Meaning:意味)
- A(Achievement:達成)
この5つの要素が満たされると幸福感が高まるとされています。
自分がどの要素を大事にしているか、どれが不足しているかを振り返ることは、生きがい探しに役立ちます。
③ 小さな実験をしてみる
「これが生きがいだ」と一気に決める必要はありません。
趣味を試してみる、地域活動に参加してみる、学び直しに挑戦してみる…。
小さな“実験”を重ねることで、「心が動く瞬間」を探すことができます。
まとめ ― 生きがいがあるから働きがいも深まる
“働きがい”と“生きがい”は似ているようで、実は異なる概念です。
働きがいは人生の一部であり、生きがいの全体を支える要素の一つ。
働きがいがあっても、生きがいが見つからなければ心は満たされません。
けれど、生きがいを感じられるようになると、働きがいもより深い意味を持つようになります。
だからこそ、仕事だけに生きがいを求めるのではなく、人生全体を見渡して「自分にとっての意味」を探していくことが大切です。
そして、それは一度で答えが出るものではなく、状況や年齢とともに変化していくもの。
私自身もまだ、生きがいを探している途中です。
でもその探求こそが、人生に豊かさを与えてくれるのだと信じています。













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