共生・バリアフリー

“支援する側”だけじゃない ― 当事者として、支援者として

障害当事者でありながら支援者になるということ

障害のある当事者が、福祉の仕事に就き、支援する側として活動することは少しずつ増えてきました。でも、まだ一般的とは言いづらいのが現状です。ここでは、支援者として働く当事者の視点から、その意義と課題について考えてみます。

経験と専門性の両立がもたらすもの

当事者であることは、支援において特別な視点を持てる強みになります。例えば、自分が「どうされると嫌だったか」「どうされると嬉しかったか」という経験は、教科書には載っていない“リアルな視点”です。そこに社会福祉士や精神保健福祉士など国家資格による専門性が加わることで、説得力と実践力のある支援が可能になります。

信頼を築くために必要なもの

支援をする際、当事者であるからこその共感力が生きる場面は多くあります。一方で、「同じ立場だからわかるでしょ」と思われてしまうこともあり、そこには難しさもあります。支援者として信頼を得るには、自分の経験だけでなく、相手に寄り添う姿勢や聴く力、そして第三者としての視点も欠かせません。

当事者の言葉が社会を変えていく

「支援される側」としてだけでなく、「支援する側」に立ったとき、社会に対する発信力が大きく変わります。当事者が専門職として語ることで、制度や社会への説得力ある働きかけができるようになります。その存在が、障害福祉制度の質を底上げする力になるのです。

「支援されること」に違和感があった頃

当事者が支援者になるまでには、必ずと言っていいほど「支援されること」への戸惑いや抵抗があります。ここでは、筆者自身の経験も交えながら、その葛藤と変化についてお伝えします。

「迷惑をかけている」という思い込み

誰かに手伝ってもらうたびに「ごめんね」「ありがとう」を何度も言っていた頃、「自分は周囲の負担になっているのでは」と感じることがありました。支援が当たり前になると、「感謝しきれない自分」に罪悪感を持ってしまうこともあります。

支援を受け入れるまでの時間

本当に困っているのに「自分でやらなきゃ」と無理をしてしまうこともありました。でも、少しずつ「これはお願いしてもいいことなんだ」と思えるようになったのは、信頼できる人との出会いや、断られても大丈夫だと学んだからです。支援は依存ではなく、“関係性”で成り立つのだと気づきました。

支援の意味が変わった瞬間

「支援される側」という枠を超えて、自分も何かを返せる・役割を持てると感じられたとき、初めて支援がポジティブなものとして受け取れるようになりました。支援は一方通行ではなく、双方向のやりとり。それに気づけたことが、大きな転機になりました。

支援者として求められるスキルと姿勢

当事者であることは強みですが、それだけでは支援者としてやっていくには不十分です。支援者として働くうえで必要なスキルや姿勢について整理してみます。

感情ではなく目的を軸に

「わかるよ、その気持ち」と共感することは大切ですが、それだけでは解決につながりません。支援は“何を目的として、どういう結果をめざすのか”を冷静に考える力が必要です。当事者の感情を理解した上で、論理的に支援計画を立てることが求められます。

伝え方の工夫と専門用語の翻訳

支援者になると、どうしても専門用語を使いがちです。でも、目の前の人がその言葉を理解できなければ意味がありません。自分がわかりやすい言葉で説明されて嬉しかった経験を思い出しながら、伝え方を工夫することが必要です。

「自分を出しすぎない」ことの大切さ

当事者としての経験を語ることは大きな力になりますが、すべての相手にそれが通じるとは限りません。「私はこうだったけど、あなたはどう?」と問いかける姿勢が、支援者としてのバランス感覚につながります。

制度の中で“自分の立ち位置”を見つける

障害福祉制度の中で働く支援者として、当事者である自分の立ち位置を見つけるのは簡単ではありません。でも、その“揺らぎ”もまた支援の質につながる大事な要素だと感じています。

制度のギャップに気づける立場

当事者だからこそ「制度上こうなっているけど、現場では使いづらい」といったギャップに敏感になれます。その声を現場から伝え、制度の改善につなげることができるのも、当事者支援者ならではの役割です。

どちらの気持ちもわかる葛藤

利用者として制度に助けられてきた立場でありながら、支援者として制度を運用する責任もある。そんな「両方の気持ちがわかる」からこそ、割り切れない場面もあります。その葛藤に向き合い続けることが、専門性につながると信じています。

“役割を作る”という働き方

私は、与えられた仕事をこなすというより、自分の特性や強みを活かして“役割を作る”働き方を意識しています。それが当事者である私にとっての「居場所」であり、「社会とのつながり」なのです。

これからの「支援者像」に必要なこと

今後、当事者が支援者として働くケースはますます増えていくでしょう。そのとき、求められる支援者像とはどんなものかを考えてみます。

経験+学びを積み重ねる姿勢

当事者であることは経験という意味では大きな強みですが、それだけで支援ができるわけではありません。資格取得や現場経験を通じて、理論と実践を積み重ねていくことで、より質の高い支援が可能になります。

「支援される立場」のままで終わらない

「支援される人」として終わるのではなく、「支援する人」へと役割を広げていく。当事者の立場からでも社会に関わり、自分らしく働くことは十分に可能です。その一歩を踏み出す人が増えることで、福祉の現場も変わっていくはずです。

多様な「当事者支援者」が広がる未来へ

すべての当事者が支援者を目指す必要はありませんが、「当事者が支援者になる」という選択肢がもっと自然なものになってほしいと願っています。それは、誰もが自分らしい立場で社会と関わっていける、インクルーシブな未来への第一歩です。

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