生き方・自己理解

それでも“言えなかった”あなたへ――伝えられないときの自分を責めないで

言いたいことはあったのに、どうしても言葉にならなかった。伝えたかったけど、できなかった。――そんな経験をしたあと、「やっぱり自分はダメだ」と責めてしまうこと、ありませんか?今回は、そんな“言えなかった自分”をやさしく見つめ直すためのお話です。

言えなかったのは「弱さ」じゃない

支援者や周囲の人に対して、「こうしてほしい」「これはちょっと違う」と感じたのに、何も言えなかった。

頭の中ではずっと考えていたのに、いざその場になると、喉が詰まるような感覚になって言葉が出てこなかった。

そんなとき、自分のことを「気が弱いから」「甘えてるから」と責めてしまう方も多いかもしれません。

でも、言えなかったのは“弱さ”ではありません。

そこには、「関係を壊したくない」「嫌われたくない」「相手を困らせたくない」という、あなたなりの“思いやり”や“優しさ”があったはずです。

本当は大事にしたかった気持ちを、伝えられなかったこと。それだけで、あなたの心がどれだけ揺れていたかが伝わってきます。

「言えなかった」には理由がある

言いたいことが言えないのには、それぞれの背景があります。

  • 過去に伝えて否定された経験がある
    →「どうせまた分かってもらえない」と思ってしまう。
  • 相手に“申し訳なさ”がある
    →「これ以上迷惑をかけたくない」と遠慮してしまう。
  • 言葉で自分の気持ちを整理するのが難しい
    →「何をどう伝えたらいいかわからない」と固まってしまう。

つまり、「言えなかった」のは意志や勇気の問題ではなく、経験や状況、性格や特性が影響しているということ。

それを「自分のせい」にしてしまうのは、とてももったいないことです。

言えなかったからこそ、気づけたこともある

伝えられなかったことを、ずっと後悔し続けてしまう人もいます。

「あのとき、ちゃんと言えていたら…」「やっぱり言うべきだったのに…」

でも、言えなかった経験にも、ちゃんと意味があります。

たとえば――

  • 「伝えることの難しさ」に気づけた
  • 「本当はどこまでが言いたかったのか」自分の気持ちを深く考えるきっかけになった
  • 「今度こそ、もう少しだけ伝えてみよう」と思えた

言えなかったからこそ、次に活かせる「学び」や「気づき」があります。

それを否定せず、丁寧に受け取ってあげることで、次のステップへつながっていきます。

「伝えなきゃ」と思うほど、言えなくなることもある

「ちゃんと伝えないと」「言わないと伝わらない」――支援の世界ではよく聞く言葉です。

もちろん、それは大切なこと。でも、“伝えることが正義”のようにプレッシャーになると、逆に言えなくなることもあるんです。

「伝えるのが当たり前」と思われている空気の中で、言えない自分がどんどん苦しくなっていく。

だからこそ、「言えなかったこと」もちゃんと価値のある経験だと認めることが、とても大事だと思います。

あなたが心の中で抱えていた“思い”は、たとえ言葉にならなかったとしても、ちゃんとそこに存在していたんです。

言えなかったときの、やさしいセルフケア

伝えられなかったあとに、落ち込んだり、悩んだりすることもあると思います。

そんなときは、無理に「次は絶対言うぞ」と気合いを入れるより、まずはこんなふうに自分に声をかけてみてください。

  • 「今日は言えなかったけど、それでも一歩だった」
  • 「言いたいと思っていた気持ちは、大事にしてあげよう」
  • 「次に言えるタイミングが来たら、そのときまた考えよう」

大事なのは、自分の中にある“本音”に、否定せず向き合ってあげること。

言葉にならなかった気持ちも、ちゃんと自分にとっての「大切な声」です。

まとめ:「言えなかった日」も、あなたの歩みの一部

支援の中で「言えたこと」が評価されやすい時代だからこそ、「言えなかったこと」も見逃さず、大切にしていきたいと思います。

伝えることは確かに大切。でも、それと同じくらい、伝えられなかったときに、自分を責めずにいられることも、すごく大切な力です。

もし今、あなたが「言えなかった」と悩んでいるなら、どうかこう思ってください。

「それでも、自分の中には大切な気持ちがあった」

そのことに気づけたあなたは、もう十分、前に進んでいるのです。

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