心のケア・メンタルヘルス

“できない自分”を隠したくなるとき

はじめに

人と比べて「できないこと」が目立つとき、私たちはついそれを隠したくなります。
「弱いところを見せたら笑われるかもしれない」
「できないと知られたら頼りにされなくなるかもしれない」
そんな思いから、無理に頑張って「できる自分」を演じてしまうことがあります。

私自身、障害によって日常生活の中に「できないこと」がたくさんあります。
それを素直に言えずに無理をしてしまい、あとで体も心も疲れ果ててしまった経験が何度もあります。

では、なぜ私たちは「できない自分」を隠したくなるのでしょうか。そして、その気持ちとどう付き合えばいいのでしょうか。


■「できないこと」を隠したくなる心理

心理学的には、「できない自分を隠す」背景には大きく二つの要因があるといわれます。

  1. 承認欲求
     人から認められたい、尊重されたいという自然な気持ちがあるからこそ、「できない」と思われたくない。
  2. 防衛反応
     過去に「できない」と指摘されたり否定された経験があると、その痛みを避けるために「隠す」行動を取ってしまう。

つまり「できないことを隠す」のは、弱さではなく“自分を守る工夫”でもあるのです。


■私自身の体験

私は仕事の場で、実際には一人で処理できない量の業務を抱えてしまったことがあります。
「助けを求めたら能力が低いと思われるかもしれない」という不安から、黙って抱え込んでしまったのです。

しかし結果として、仕事の質も落ち、周囲に迷惑をかけてしまいました。
後になって「できないことを隠すより、できることを伝えて協力をお願いすればよかった」と気づいたのです。


■「できない」を隠さずに伝える工夫

隠すことが必ずしも悪いわけではありません。けれど、それが自分を苦しめるときには「安心して伝える工夫」が必要です。

  • できないことだけでなく、できることも一緒に伝える
    例:「これは難しいですが、こちらならできます」
  • 頼むときに感謝を言葉にする
    例:「助けてもらえると助かります。ありがとう」
  • 小さな場面から“できない”を出してみる
    いきなり大きなことを打ち明けるのではなく、日常の小さなことから「苦手です」と伝える練習をする。

■まとめ

「できない自分を隠したくなる気持ち」は、誰にでもある自然な反応です。
けれど、それをずっと続けていると心も体も疲れてしまいます。

「できない」を隠すのではなく、「できること」と一緒に伝えること。
その一歩が、自分を大切にすることにつながります。

無理に強い自分を演じなくても大丈夫。
できないことがあるからこそ、人と支え合いながら生きていけるのだと思います。

“人に頼ること”への罪悪感を手放すとき前のページ

“できないこと”があるからこそ、“働き方”を考えられる次のページ

関連記事

  1. 心と人間関係

    “本音を言えない”自分がつらくなるとき

    傷つかずに気持ちを伝えるためのヒント【はじめに】言い…

  2. こころのケア

    イライラ・モヤモヤの正体に気づくには

    はじめに誰かに嫌なことを言われたわけでもないのに、なぜかイラ…

  3. こころと向き合う

    小さな成功を見逃してしまうとき

    私たちは、つい「大きな成果」を求めてしまいがちです。試験に合格するこ…

  4. 心のケア・メンタルヘルス

    “気を張りすぎる自分”に疲れたとき

    力を抜いても大丈夫と思えるためのヒント【はじめに】人…

  5. 人間関係

    完璧でいられない自分が不安になるとき

    “ほどよく力を抜く”ためのヒント【はじめに】「もっと…

  6. 心のケア・メンタルヘルス

    “頑張りすぎた翌日”に襲ってくる自己嫌悪

    ゆっくり立ち上がるための心の扱い方【はじめに】昨日あ…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


  1. 当事者の声

    “これから”を描く力 ― 未来を焦らず育てていく
  2. 障がい者との関わり方

    脳性まひってどんな障害?~当事者のリアルを通して知ってほしいこと~
  3. 障がい者との関わり方

    “対等な関係”ってなんだろう? ― 支援・配慮・遠慮のあいだで
  4. 当事者の声

    “ゆっくりでいい”と言える強さ ― 自分のペースで生きるということ
  5. 働き方

    「責任感が強いほど“抱え込みすぎる”のはなぜ?
PAGE TOP