“支える”ことに憧れていた頃
私は昔から、「誰かを支えられる人になりたい」と思っていました。
それは、支えられた経験があるからこその願いだったのかもしれません。
自分が苦しいとき、寄り添ってくれた人の存在に何度も救われました。
だからこそ、今度は“自分が誰かを支える番だ”と思ったのです。
けれど、実際に支援職として働くようになると、
“支えることの難しさ”に何度も直面しました。
思ったように相手が動いてくれない。
「どうすればいいんだろう」と悩むうちに、
自分の気持ちが焦りや無力感に変わっていく。
いつの間にか、「支えること」が「背負うこと」になってしまっていたのです。
“寄り添いすぎる”ことで見えなくなること
支援の現場では、“寄り添い”が大切だとよく言われます。
しかし、寄り添いすぎると、相手の気持ちと自分の気持ちの境界があいまいになります。
「この人を助けたい」
「もっと力になりたい」
その想いは尊いものですが、
度を超えると“共倒れ”になってしまうこともあるのです。
私は以前、ある利用者さんに深く関わりすぎて、
自分の心の余裕を失ったことがありました。
その方のつらさを自分のことのように感じ、
「何とかしなきゃ」という気持ちがどんどん膨らんでいったのです。
でも、ある日ふと気づきました。
「私が焦っても、この人の人生はこの人のものなんだ」と。
支えることと、抱え込むことは違う。
それを実感した瞬間でした。
私自身の経験から感じた“ちょうどいい距離”
私はこれまで、さまざまな人と出会い、関わってきました。
その中で学んだのは、
“支える”とは「助けること」ではなく、「信じること」だということです。
たとえば、ある利用者さんが初めて外出に挑戦したときのこと。
「できるか不安です」と言うその方に、私はつい口を出しそうになりました。
けれど、ぐっとこらえて「信じて見守る」ことを選びました。
結果、その方は自分の力でやり遂げ、笑顔で戻ってきました。
その笑顔を見たとき、私は“支えた”というよりも、“信じることができた”ことに救われた気がしました。
支援の仕事は、「寄り添うこと」と「距離をとること」のバランスの上に成り立っています。
どちらか一方に傾くと、相手も自分も苦しくなってしまう。
相手の力を信じ、自分の限界を知る。
その“ちょうどいい距離”が見えてくると、
支援はぐっと穏やかで温かいものに変わっていきます。
支えるために大切にしている3つの視点
① 相手の“できる力”を信じる
「助ける」ことに夢中になると、
つい相手の“できる力”を見落としてしまうことがあります。
でも、人は誰でも自分の中に“回復する力”を持っています。
支える側の役割は、その力を引き出すサポートをすること。
“代わりにやる”よりも、“信じて見守る”ほうが、
結果的に相手の自立につながっていきます。
② “代わりにする”より“一緒に考える”
相手が困っているとき、すぐに解決策を出したくなるのは自然な反応です。
けれど、それでは“支援”ではなく“介入”になってしまうことも。
「どうしたらいいと思いますか?」
「一緒に考えてみませんか?」
そう問いかけることで、相手の中にある答えを引き出すことができます。
支えるとは、“答えを与えること”ではなく、
“一緒に考えること”。
そのプロセスこそが、相手の成長を支える一番の力になります。
③ 支える自分も、支えを受け取る
支援職として働く中で、私は何度も「自分が支えられている」ことを実感してきました。
同僚や仲間との対話、利用者さんからの言葉、家族との時間――
どれも私にとっての“支え”です。
支えることは、一方通行ではありません。
支える側もまた、人に支えられながら生きている。
その事実を受け入れることで、
「支援」は“役割”ではなく“関係”になるのだと思います。
まとめ ― “支える”とは、信じて見守ること
“支える”という言葉には、どこか力強いイメージがあります。
けれど、ほんとうに人を支えるとは、
力で押し上げることでも、前に引っ張ることでもありません。
それは、相手が自分のペースで歩けるよう、
隣で灯りをともしておくこと。
転びそうになったらそっと手を差し伸べ、
また自分の足で立ち上がる力を信じること。
支えるとは、“何かをしてあげる”ことではなく、
“相手を信じて、待つこと”。
その静かな信頼が、
人を強く、そして優しくしていくのだと思います。
🌼 あとがき
支援の仕事をしていると、
「支える側」である自分が、いつの間にか支えられていることに気づく瞬間があります。
その相互の関係こそが、福祉や人のつながりの本質なのかもしれません。
寄り添いながらも、抱え込みすぎず。
信じながらも、無理をしすぎず。
そんな“しなやかな支え方”を、これからも探していきたいと思います。













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