当事者の声

支え合う関係の中で、“自分”を見失わないために

支え合う中で生まれる“迷い”

誰かを支えたり、誰かに支えられたりしながら生きる――
それはとても温かいことのように思えます。
けれど、その中でふと迷うことがあります。

「どこまで関わればいいんだろう」
「相手のために、どこまで自分を我慢すべきなんだろう」

支え合いの関係は美しく見える反面、
その裏には“見えない境界線”が存在します。
相手を思うあまり、自分の気持ちや時間を犠牲にしてしまうこともある。
支える側も、支えられる側も、どちらも“人”だからこそ揺れるのです。

私も福祉の仕事を通じて、
「相手のために頑張らなきゃ」と思うあまり、
気づかないうちに自分を置き去りにしていた時期がありました。
それは“優しさ”のつもりだったけれど、
いつの間にか“無理”に変わっていたのです。


“優しさ”が自分を苦しめるとき

誰かを思いやる気持ちは、もちろん大切です。
けれど、その優しさが“過剰”になると、
自分を追い詰めてしまうことがあります。

心理学では、それを「過剰共感」や「自己犠牲的優しさ」と呼びます。
相手の痛みに強く共感するあまり、
自分まで同じように苦しみを背負ってしまう状態です。

たとえば、相手が落ち込んでいるとき、
「私が何とかしなきゃ」と感じてしまう。
その気持ちは尊いけれど、
“相手の痛み”と“自分の責任”を混同してしまうと、
お互いに苦しくなってしまいます。

本来の優しさとは、
「相手を思いやりながら、自分も大切にすること」
どちらか一方が我慢しすぎる関係は、
やがて“支え合い”ではなく、“依存”に変わってしまいます。


私自身の経験 ― 支援の中で感じた“自分を保つ難しさ”

福祉の現場にいると、「人を支えること」が日常です。
でも、長く続けるほど気づくのは、
“支えること”と“自分を保つこと”の両立がいかに難しいかということ。

私はある時期、
「相手のために」と思う気持ちが強すぎて、
自分の時間も心も削ってしまっていました。

休むことが悪い気がして、
「自分が頑張れば何とかなる」と信じていた。
でも、そうやって走り続けた結果、
心が疲れきってしまったのです。

そんなとき、ある先輩に言われた言葉があります。
「自分を大切にできない人は、相手を大切にすることも長くは続かないよ」

その言葉が、私の中で深く響きました。
支えるというのは、相手の人生に“伴走すること”。
けれど、伴走するためには、自分の心にも“余白”が必要なんです。


支え合いの中で“自分”を保つ3つのヒント

① 「できること」と「できないこと」を整理する

支え合いの中では、「全部助けなきゃ」と思い込んでしまうことがあります。
でも、すべてを抱え込む必要はありません。

自分ができることと、できないことを整理する。
そして、できないことを「できない」と言える勇気を持つ。
それは、決して無責任ではなく、誠実な関わり方です。

できる範囲で支えることこそ、長く続けられる優しさ。
“無理をしない支え方”が、結果的にお互いを守ります。


② 自分の感情を正直に受け止める

相手を支える中で、イライラしたり、疲れたり、悲しくなったりすることがあります。
そんな自分の感情に「ダメだ」とフタをしてしまう人は多いかもしれません。

でも、感情は“自分の状態を教えてくれるサイン”です。
「今日はちょっと余裕がないな」
「なんだかしんどい」
そう感じたら、立ち止まってもいい。

支える側が心をすり減らしてしまうと、
相手にもその疲れが伝わります。
だからこそ、自分の心をいたわることも“支援の一部”なんです。


③ “相手を信じる”ことで距離を保つ

支え合いの関係で最も大切なのは、
「相手を信じること」。

相手が自分の力で考え、乗り越える力を信じることで、
自然と適切な距離が保てます。

人は誰でも、支えられるだけでなく、
“自分で立ち上がる力”を持っています。
その力を信じることが、
相手への最大の“リスペクト”なのだと思います。


まとめ ― “私らしく関わる”という優しさ

支え合う関係の中で、
私たちはつい「良い人でいよう」としてしまいます。
でも、本当に大切なのは、
**「自分を見失わずに関わること」**です。

相手のために動きながらも、
「私は私」と言える自分を持っていること。
それが、長く穏やかに支え合うための土台になります。

支えるとは、相手の人生に寄り添うこと。
でも、自分の人生を置き去りにしてまで寄り添う必要はありません。
“自分を大切にすること”は、“相手を大切にすること”と矛盾しないのです。

支え合うというのは、
相手の幸せと同じように、自分の幸せも大事にしていくこと。
そのバランスの中にこそ、本当の優しさがあるのだと思います。


🌿 あとがき
「支える」「支えられる」は、常に入れ替わるものです。
どちらの立場であっても、
“自分を保つこと”ができれば、関係はよりしなやかになります。

人と関わる中で、自分の輪郭を曖昧にしすぎないこと。
それが、長く人とつながり続けるための優しい工夫だと思います。

“支える”とは、寄り添いすぎないこと ― 経験から学んだ関わり方前のページ

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